今年のメジャーリーグは、松井秀喜選手が所属するニューヨークヤンキースが見事ワールドシリーズを制し、松井選手は日本人メジャーリーガー初となるワールドシリーズMVPに選ばれました。ヤンキースは、松井選手が入団して初めての優勝でした。ワールドシリーズ決勝を戦った相手は、ロサンゼルスエンゼルス。残念ながらヤンキースに敗れてしまいましたが、このチームには今年、どうしても負けられない強い気持ちがありました。それは、シーズン途中で逝ってしまったチームメイトとの約束でした。エンゼルスには、開幕から期待を集めていた若手投手がいました。彼の名は、ニック・エイデンハート。2004年の入団当時から注目されており、初戦でいきなり勝利投手になります。さぁこれからだ、という彼に突然、悲劇が起きます。4月9日、エイデンハートら4人が乗った車が交差点に差し掛かった時、信号を無視してきた赤いミニバンが時速80㎞で交差点に突っ込み、エイデンハートらが乗っていた車に衝突しました。ミニバンの運転手は現場から逃走。一方、エイデンハートらが乗っていた車は、運転していた20歳の女性と25歳の男性が即死。エイデンハートら残り2人は病院に搬送されましたが、エイデンハートも緊急手術の甲斐なく亡くなってしまったのです。この日のエンゼルス戦は中止。エイデンハートをいつも可愛がり弟のように接していた、トリー・ハンター選手がこんな言葉を言いました。「ここにいる人間の多くは肉親を亡くした経験がない。こんな事故が起こったことは残念だ。だが、これも人生の一部。これが現実だ。俺たちが、毎日朝起きた時や仕事に行く前、子供たちや家族にキスをするのはこういう理由なんだ」と。翌日の試合前、追悼セレモニーが行われ、ファウルラインには両チームの選手が整列し、マウンドにはエイデンハートのユニフォームを持ったハンター選手が立ち、黙祷を捧げました。エンゼルスのクラブハウスにあるエイデンハートのロッカーは、彼が生きていたときのまま残され、選手が着用するユニフォームの胸部にはシーズン中、エイデンハートの背番号34をあしらった喪章がつけられました。エンゼル・スタジアム・オブ・アナハイムの中堅フェンスには、投球するエイデンハートのモノクロ写真が彼の名前と背番号と共に設置されました。そしてこの年、エンゼルスは圧倒的強さで西地区優勝を果たしました。選手たちは試合に勝ち優勝が決まったあと、選手たち全員で外野のエイデンハートのモノクロ写真にタッチをしに行きます。シャンパンファイトの時には、選手はエイデンハートのユニフォームにもシャンパンをかけ喜びを分かち合いました。そして、臨んだワールドシリーズでは、残念ながら松井選手の活躍により惜敗してしまいました。しかし、先日、このエンゼルスに松井選手の移籍が決定しました。エイデンハートの意思を継いで、松井秀喜選手は来期エンゼルスで活躍し、きっと優勝してくれる事でしょう。何が起こるか分からないこの世の中。日頃から誰かに対する愛情の表現、感謝の気持ちを伝える事ができるのは、人間だけに与えられた唯一の特権なのかもしれません。私も家族や友人など身近な人々だけではなく、もっと広く大きく感謝の念が持てる人間になりたいと思います。